福島家庭裁判所いわき支部 平成9年(少)669号 決定 1997年12月24日
少年 N・J(昭和58.11.26生)
主文
少年を初等少年院に送致する。
理由
(非行事実)
少年は、○○中学校2年に在学中のものであるが、A及びBと共謀の上、平成9年11月27日午後3時30分ころから午後4時30分ころの間、いわき市内の○○配水池付近において、同級生のC(当事13歳)に対し、100円ライターを握った手拳や角材で頭部、顔面、肩部等を殴打したり、鉄の棒で腕や手を突いたり、足蹴にするなどの暴行を加え、よって、同人に頭部・顔面打撲、頭部挫傷、右肩・左足首打撲、右手裂傷等全治約1か月を要する見込の傷害を負わせたものである。
(適用法条)
刑法60条、204条
(非行事実を認定した理由)
1 本件は、平成9年12月2日、○○警察署からぐ犯事件として、当家庭裁判所に送致されてきたものである。しかしながら、本件事件記録を精査するに、共犯少年の供述調書、実況見分調書等の送付がされていないものの、少年、被害少年及び目撃少年各供述調書、被害届、診断書、写真撮影報告書に本審判廷における少年の供述を総合すると、前記の傷害の事実を認定することができる。
2 ところで、少年法3条1項は、審判に付すべき少年として、犯罪、触法、ぐ犯の各少年を規定しているが、前二者の場合は少年のなした行為を審判に付すべき事由とするのに対し、ぐ犯少年の場合は、青少年の健全な育成と刑事政策的見地から、犯罪ないし触法行為には至らないが、その一歩前の状態にある少年を捕足し保護せんとする制度であるから、本件の少年のように既に前記の犯罪をなしていることが認められる以上は、もはや少年をぐ犯少年として処遇することは許されない。
3 そして、本件事件のように警察からの送致書にぐ犯事由として記載された事実の中に前記認定の犯罪行為の記載がある場合は、これを特に犯罪行為として立件する手続を持つまでもなく、そのまま犯罪行為として審判の対象とすることが許されるというべきである。
なお、送致書には本件非行事実以外のぐ犯事実の記載も存するが、前者は後者が発展して直接現実化したものとみられるから、前者に吸収されると考える。
(処遇の理由)
1 少年は、小学校時代から、乱暴な言葉がみられ、カッターやはさみを持ち歩くこともあり、小学6年のころからは、ゲーム場等に出入りしたり、バイクの運転をするようになった。
中学入学後は、学校の再三の指導にもかかわらず、校則違反の服装をして登校し、さらに、中学1年の6月中旬ころからは、学校の指導を不満として登校せず、非行歴を有する先輩達と喫煙、深夜徘徊等を繰り返すようになった。
少年は、その後も、気が向いた時にだけ登校し、喫煙等を繰り返し、学校の教師に注意されると所携の刃物を振り回したり、気にいらないことがあると他生徒に一方的に暴行を加えるなどの行為を繰り返した。そのため、平成9年7月17日、浜児童相談所に身柄付きでぐ犯通告されたが、少年が暴れたため一時保護の措置がとられず、児童福祉司の継続指導となったが、素行を改めることはなく、本件非行を敢行するに至ったものである。
2 本件非行は、被害少年に無視されたことに立腹してて行ったというもので、その動機は極めて安易かつ自己中心的なもので、犯行態様も前記認定のとおりかなり執拗であり、生じた結果も重大である。そして、その動機、犯行態様や前記の非行に至る経緯からすると、本件非行は偶発的に起きた事件というよりは、これまで少年が長年にわたって身に付けてきた自己中心的な価値観や生活習慣が顕在化したものと考えられ、その根となる部分は相当深いものと推察される。
3 少年は、今回の観護措置を通じて、反省の姿勢を示しているが、被害者の心情を思いやったり、自己の行った行為の重大性を十分認識するには至っておらず、鑑別所に収容されたのは学校の教師のせいであるという思いこみが強い。
また、少年は、基本的には幼児性の残る未成熟な人格であり、かかる未成熟性からくる自我の弱さ、耐性の弱さ、自己統制力の欠如、社会性や道徳性の未発達が顕著である。さらに、少年は、外見は虚勢から傍若無人に振る舞っていても、外界に対する緊張や不安が強く、対人関係においても些細なことで敵意を抱き、攻撃的になることが多く、その場合も、手心を加えることなく徹底的に相手を打ちのめす傾向が見受けられることから、今後も、粗暴的な重大非行を激情的に敢行する危険性は否定しがたい。
したがって、少年に対しては、右価値観を改めると共に、社会常識を身につけさせ広い視野で社会を見ることができる力を養い、目的を持ちそれに向かって努力することの充実感を経験させることや集団における自己の役割を果たすことによって集団に帰属意識を持たせるなどの訓練が必要と思料される。
4 ところで、少年の母親は少年のことを心配はしているものの、少年に対する同情が先に立ち、普段の生活においても喫煙を注意するどころか少年のために煙草を切らさないように気を配るなど機嫌を損ねないようにするだけであり、その指導力は期特できない。
また、父親は、今後、少年を引き取って育てたいと述べているが、以前、少年が児童相談所に通告された際も自己の経営する会社が従業員用に借りている住宅の一室を与えBと共同生活をさせただけで特に指導もしておらず、さらに、再婚も予定されていることから、今後、少年の指導のためにどれだけの時間を割けるかは疑問である。また、少年に対し年齢にふさわしくない金品を与えるなどこれまでの指導方法には問題が多く、審判廷においても、学校や被害少年に責任を転嫁するような言動が見受けられ、少年の持つ真の問題点を把握してその解決に努力しようとする姿勢は見受けられない。
さらに、少年の前記のような社会性の未熟さは、そもそも家庭における躾不足もその大きな一因となっていると推察されることからすると、いずれにしても家庭における指導には大きな期待はできない。
また、学校も少年に関しては学校教育の限界を訴えており、少年が児童相談所の指導にも全く応じようとしないことは前記のとおりである。
かかる少年の家庭及び学校への帰属意識が低い現状においては、少年の持つ真の問題点を解決するためには、社会内における指導には限界があり、したがって、相当期間、施設において教育する必要があると思われる。
5 以上によれば、少年を初等少年院に収容することにより、指導者との間で信頼関係を形成し、大人や社会に対して抱いている反発心やかたくなな気持ちを和らげ、素直な気持ちで自己や他人を見つめられるように指導することによって、今後における少年の健全な育成を期するのが相当と思料される。
よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項により、主文のとおり決定する。
(裁判官 藤原俊二)
〔参考〕 抗告審(仙台高 平成10(く)4号 平10.1.22決定)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、附添人弁護士○○が提出した抗告申告書に記載されたとおりであるから、これを引用する。
論旨は要するに、少年を初等少年院に送致した原決定の処分は重すぎて著しく不当である、というのである。
そこで、記録を調査して検討するに、本件は、少年が、仲間2名と共謀の上、C(当事13歳)に対し、手拳や角材でその頭部、顔面、肩部等を殴打したり、鉄の棒で腕や手を突いたり、足蹴りにするなどの暴行を加え、原判示の傷害を負わせた(なお、原決定書一枚目裏9行目に「頭部挫傷」とあるのは「頚部挫傷」の誤記と認める。)という事案であるところ、原決定が、「処遇の理由」の項において、本件非行の内容、少年の補導歴、資質、性格、生活態度、保護者の保護能力等処遇の資料とすべき事情について認定説示するところは、すべて首肯することができる。右の事情、殊に、少年は、中学1年の6月ころから殆ど登校せず、不良交友を続け、学校、児童相談所等の指導に従おうとせず、かえって反抗し、他の生徒に対し、しばしば暴力を振るうなど、暴力志向や粗暴傾向がみられ、学校での指導はもはや限界に達していること、少年の幼稚、未成熟で自己統制力に欠ける人格資質上の問題点が大きいこと等に照らすと、少年の要保護性は顕著であり、所論指摘のように、本件は、少年が高校進学を希望して登校し始めた矢先の事件であること、少年の保護者が被害者に対し治療費、見舞金等を支払って謝罪し、少年を自分の手許で監護することを望んでいること、少年の家庭裁判所への事件係属が今回初めてであり、少年も十分反省していることなどの事情を十分考慮に入れても、少年を初等少年院に送致した原決定の処分が著しく不当であるとはいえない。論旨は理由がない。
よって、少年法33条1項後段、少年審判規則50条により、本件抗告を棄却することとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 泉山禎治 裁判官 堀田良一 河合健司)